「アップルっぽいデザインにして」はウェブ担当者がけっして気軽に口にしてはならない言葉

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白黒のりんご

この記事は、仕事で「アップルっぽいデザインのウェブサイトを作りたい」と言われて何か気づいたデザイナーが書いたものです。それに対して私がどんな解を出したかは、残念ながら契約の都合上一切お見せすることはできません。

でもやってみて、思いました。それは、本当に難しい。日本でウェブサイト作りにかかわるかたたち、とりわけ発注する立場にある方は「アップルっぽくしたい」という言葉を、けっして気軽に口にしてはなりません。いまやシンプルでクールなデザインの代名詞ですから、あちこちで飛び交っていそうですが。

その理由と、それでも実現するにはどうしたらいいかを綴りました。

アップルっぽいウェブデザインとはどういうものか?

写真やキャッチコピーじたいが機能を持っている

まずはアップルのウェブサイトをデザイナー目線で見てみます。すると、なんとなくその秘密が浮かび上がってきます。

巨大なサイズで配置される写真も、印象的な短いキャッチコピーも、高い存在感で強烈なメッセージを放ちます。なおかつ、その配置や大きさの組み合わせがユーザーのアクションを引き出せるよう、徹底的に考え抜かれています。

言ってみれば、人を動かすクリエイティビティです。平凡なデザインのサイトならばど派手な色のボタンをでかでかとつけなければならないところ、アップルならば文字だけでクリックさせることができるのです。

アップルのデザインをみて、多くの人が「シンプル」と表現します。なぜシンプルで済むのかといえば、少ない要素の組み合わせだけでもユーザーのアクションを引き出すことができるからです。

だから表面だけパクっても、アップルっぽくならない

それは言うまでもなくiOSやOS Xにおけるユーザ体験デザインと同じ思想であり、ウェブサイトのデザインも同じ根っこから生えているとみて間違いありません。

「UX?難しいことは別にいいから、見た目だけなんとなくアップルっぽいデザインにして」と食い下がる人もいるしれませんが、それがいかに「アップルっぽさ」と矛盾することか。見た目がおしゃれであれば済む話ではないのです。

アップルっぽいウェブサイト作りを阻むもの

そもそもそんなデザインをうまく取りまとめられるディレクターやデザイナーが多くない、いても出会えない、といったつくる人側の事情に加え、「日本の大企業あるある」も「アップルっぽいサイトを作りたい」という要望をより難しくします。

ユーザー体験より政治が優先される環境

ひとつの例を挙げます。私が以前ウェブサイト制作を引き受けた企業から、完成間際にこんな修正指示を受けました。「ナビゲーションメニューにすべての部署の名前を入れてほしい。社内でクレームになるから」。横並びのメニューは10個ほどになり、私はなんとか2段重ねの配置案をひねり出しました。けっして使いやすいとは思えませんでしたが。

ウェブサイトの制作において、ユーザー体験よりも、社内政治を優先する。せざるを得ない。わりと冗談じゃなく珍しくない現象なのですが、いうまでもなく「アップルっぽさ」にはあからさまに矛盾します。

結局、無難なほうが向いていることが多い

機能とデザインを一体化する「アップルっぽさ」を真似したいならば、実現には確固とした思想が必要です。

とくに思想なきままとりあえず必要そうな要素を盛り込んだ案をつくり、稟議に回しに回し、社長や上司の要望をプラスしては修正する、といった平均的な流れの作り方のうえでは、「アップルっぽいサイト」よりも「どこかで見たことのあるような平凡なデザインのサイト」のほうが、都合もいいし作りやすく、下手するとそのほうがシンプルでわかりやすく仕上がります。

だから「アップルっぽいサイトにしてほしい」とはけっして気軽に言ってはいけないし、言うなら相当の覚悟が必要だと思うのです。

それでもアップルっぽいサイトを実現するには?

「それでもどうしてもアップルみたいなサイトを作りたい!」
ならば、もしこの二つの必要条件を満たすことができるならば、チャレンジするのも悪くないでしょう。

  • ウェブ担当者がプロジェクトについて全権を持っていて、社長や上司のチャチャが入る余地がないこと。
  • 協働するディレクター/デザイナーが会社の思想を完全に理解していて、なおかつクリエイティブそのものについてはすべて委ねられるくらい信頼していること。

たった二つですが、はっきり言ってほとんど実現不可能かもしれません。

でも、こんな可能性もあります。担当者自身がウェブサイトをプロデュースする完全な能力を持っているならば、社内のポジションによっては二つの条件をそっくり満たします。だけどそれって、もはや……プロでは?そうです。

つまり、ウェブサイト制作のプロが社内にいて、その人にそれなりの権限があるならば、思想に根ざした完璧なデザインのウェブサイトを実現することができるでしょう。おそらく、アップルのウェブサイトもそういうふうに作られていると思います。