生命ってなに?宮崎駿をネタに日本人の腐海を読み解いてみよう-「宮崎駿論―神々と子どもたちの物語」

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宮崎駿論―神々と子どもたちの物語

著者が様々な専門的な知識をメスに宮崎駿に挑んだ、その記録……というべきか。偉大な作品には、国民全体が抱える問題さえもあぶり出す力がある、ということでしょうか。

宮崎駿論―神々と子どもたちの物語 (NHKブックス No.1215)
著/杉田 俊介
出版社/NHK出版

生命とは一体何なのか?

この本は、ジブリ好きが思いを共有するファンブックとは違います。論評ではありますが、数ある宮崎駿の作品を、著者自身の体験や知識でもって解析するさまを追った「宮崎とボク」的なドキュメンタリーと言ってもいいかもしれません。

宗教や子供、ジェンダー論や介護の話など、ものすごく多彩なメスで宮崎作品を解剖していきます。その過程で日本社会が抱える問題や捨てられない観念などもあぶり出されるわけですが、最終的にはどれも「生命とは一体何なのか?」という思いへ行き着くようです。どうやらそれはこの著者にとって大きなテーマだということが、この著者の他の出版物をみてもわかります。

著者は私と同年代のようです。私たちの世代の多くが宮崎駿に何らかの影響を受けているのは言うまでもありませんが、宮崎駿をネタに日本人の腐海、もとい深い問題に触れられたのは、私にとっては良い体験でした。

ナウシカの「あの議論」もあるよ

もう少しキャッチーなことも申しますと、「風の谷のナウシカ」漫画版を読んだ方の定番の議論「ラストシーン、ナウシカのあの行動ってアリ?ナシ?」論も登場します。インターネット黎明期から今に至るまであちこちで見かけるこのテーマ、熱くなったご記憶のある方にとっては興味深く読めることでしょう。

まあ、あんまり一般向けではないかもしれない。

これは、あのセリフはああいう意味だったとか、あのシーンにはああいう意味が隠されていた、というような解説本ではありません。

ジブリのアニメが好きだという人は多くても、そのほとんどはただ単に、深いことを考えずに楽しみたいだけでしょう。そんな人にとっては、読んでもちんぷんかんぷんのような気がします。

ところで、くだんの議論について…女なら「アリ」派?

じつは私は、漫画版ナウシカの最後の行動は「アリ」派です。まあ、そら、そないするやろなあ。世間では「ナシ」派が優勢のようですが、それは、意見を述べるのは男性が多いからではないかと思っています。

問題のラストシーン、作られた生命であっても、自分の命は自分のものだ、というセリフがとても心に残ります。わたしという命の尊厳の前においては、ご先祖様の尊い想いも未来も、何の意味も持ちやしない。究極の自己中ですね。

でも、それで腑に落ちます。だって、生命ってそれくらい自己中であたりまえですもの。女としての評価を常に気にして生きなければならない身にとってはそれはわりと当然の感覚なので、彼女のチョイスは、カマトトとか言われてたわりにはめっちゃ女の中の女のそれと見えます。というか、そんな女を描ききった宮崎駿ってやっぱりすごい。

今回ご紹介した本には、これとはほぼ正反対(?)の意見が書かれています。
気になるかたはぜひ手に取ってみてください。